〒532-0011 大阪市淀川区西中島
6-7-30 スピラ2F
石井正光教授御退官に寄せて
 ご退官おめでとうございます。私が石井教授に大変ぶしつけなお願いを致しましたのは、今から10年位前にさかのぼります。
 当時、三原教授が主催されておられました鳥取大学皮膚科学教室を退職し、出身地である兵庫県北部(但馬地域)で開業したばかりでございました。外来での難治なアトピー性皮膚炎の患者さんの対応に苦慮しておりました。長期にわたるステロイド外用によるステロイド依存症の患者さんも多く、やっとステロイド依存から離脱できたかと思うと、すぐに増悪するといったことを繰り返しておられました。患者さんのお話をうかがうにつけ、聞くも涙、語るも涙といったことも多々ありました。軽快してもすぐに増悪するということは、その背後にそれなりの原因があり、別の視点からの治療が必要ではないかと愚考しておりました。
 そうしたなか、石井教授が書かれた論文の中に、「難治性アトピー性皮膚炎に対しましては、西洋医学的治療のみに頼るより、食や漢方薬の活用を加えたほうが大いに良い結果を生みます。」と書かれた部分を見いだしました。自分では力量不足ですので、ここは石井教授にお願いするしかないと思い、中部皮膚科学会場で移動中の先生を失礼ながらお呼び止めし、但馬の難治な患者さんを診て頂きたくお願い申しあげました。すると、私のような者の申し出を快く了承して頂き、感激するとともに安堵した次第でございました。
 その後、10年にわたり、大変お忙しいなか但馬地域の幾多の患者さんを懇切丁寧に診て頂き、食事指導のみならず生活全般にわたる改善点につきましても指導して頂きました。診察を受けた患者さんは以前より確実に軽快され、心より感謝されておられます。
 話は少しかわりますが、1980年代前半、鳥取大学皮膚科の島雄名誉教授が、鳥取大学ネパール医療研修団として、ネパールにて皮膚科診療をされました。(ちなみに、島雄先生はネパールの地域医療に貢献された岩村昇先生と大学の同級生です。)帰国されたのち医局会で統計を示されながら、「ネパールは非常に埃っぽく環境的にはあまり良くないにもかかわらず、アトピー性皮膚炎の患者さんが全くおられなかったのが印象的でした。」と話しておられます。その当時、日本では徐々にアトピー性皮膚炎の患者さんが増えてきておりました。島雄教授は、その原因の一つとしてネパールと日本との食文化も含めた文明の違いを考えておられたように見受けられました。そういった視点も含め関西で研究をされておられたのが、大阪市立大学医学部皮膚科の石井教授でした。教授の指導のもとで軽快した重症のアトピー性皮膚炎の患者さんをみるにつけ、石井教授がされておられる医療は、文明の中でのひずみをただすといった意味で本質的かつ普遍的なものと考えられ、感銘を受けていた次第でございます。
 石井先生、この十年間大変お世話になり誠にありがとうございました。今後ともお体にはくれぐれも気をつけられ、末永くご活躍されますよう、遠く但馬の地より祈念致しております。